Poorman's TRXを考える(フィルタ編)

2005年6月
2005年7月加筆


halflatticefilter.jpgお次はSSBフィルタです。フィルタの自作といえばラダー型がよく知られていますが、ここではハーフラティス型フィルタを試してみます。

ハーフラティス型の場合、直列共振周波数の微妙にずれた水晶の組み合わせを使用しますが、以前JH2ECU沼尻さんから教えていただいた、水晶と直列にトリマコンデンサを入れる方法を実験してみました。

halflattice_type1.gifまず、秋月で買った1個50円の10MHz水晶を4個使って、ハーフラティス型2段接続を試してみます。直列共振周波数調整用のトリマコンデンサは、1個20〜30円と高いので、図の上側の2個の水晶にだけ付けてみました。

段間の位相トランスは、秋月のフェライトビーズにバイファイラ4tです。

入出力は、とりあえず50Ω直結です。

type1sp5k.gifこれは、入出力特性を見ながら、通過帯域が一番平坦になるように調整した状態です。縦軸は1dB/divです。-6dB帯域は約2.0kHzしかありません。そして、どのようにあがいてみても、これはうまく広がってくれませんでした。
type1sp20k.gifこれは縦軸を10dB/div、スパンを20kHzにしています。スカートがかなり広がっていますね。図からは-60dB帯域は読み取れません。また、ぴたっと左右対称というわけでもありません。
type1sp100k.gifスパンを100kHzにしてみました。-60dB帯域は、25kHzくらいでしょうか。形状比12くらいです。
halflattice_type2.gifそこで今度は4個の水晶すべてにトリマコンデンサをつけてやりました。
type2sp5k.gif帯域が狭いときは↑と同じように通過帯域内がフラットになりますが、帯域を広げようとすると、どうしてもリップルが立ちます。左図は縦軸1dB/divですから、およそ1dBのリップルがありますが、-6dB帯域は2.8kHzと拡大しました。
type2sp20k.gif左図は縦軸10dB/div、スパン20kHzです。スカートの広がりは変わっていません。
type2sp100k.gifスパン100kHzです。-60dB帯域は33.3kHzです。これだと、7MHzの電信バンド内がすっぽり-60dB帯域内に入ってしまうことになりますので、ちょっとつらいかも。でも、水晶4個でラダー型を組んでも、やはりスカート特性は似たりよったりでしょう。
halflattice_type3.gif秋月で水晶を購入した際、10MHzは2種類のブランドがあったので、それぞれ5個ずつ購入してありました。両方の特性を測ってみると、ここまでの実験で使用してきたSIWARD表示のものは、fs=9.99543MHz、Cp=4.84pFであるのに対して、もうひとつのMEC AV9B表示のものは、fs=9.99736MHz、Cp=3.64pFでした。つまり、両者のfsは1.93kHzずれています。

そこで、このfsの差を利用すれば、fs補正用のTCなしでもSSB向きの帯域のものができそうです。左図がその回路です。X1とX4がMEC AV9B表示のもので、Cp補正用に5pFのTCをつけています。X2とX3はSIWARD表示のものです。

type3sp5k.gif左図は縦軸1dB/divです。帯域内のリップルは0.5dB程度と良好です。-6dB帯域は約2.3kHzとなりました。ちょっと狭めですが、SSBで使えなくはなさそうです。
type3sp20k.gif左図は縦軸10dB/div、スパン20kHzです。Cp補正用のTCは帯域外減衰量本位で調整してあります。スカートの広がりは非対照です。
type3sp100k.gifスパン100kHzです。-60dB帯域は26.3kHzです。帯域外減衰量は65dB程度です。
type3sp100knotch.gifTCを動かして、ノッチを通過帯域にできるだけ近づけてみた状態です。残念ながら、高い方のノッチが-60dBに届いていません。また、跳ね返りもかなり大きくなり、帯域外減衰量が悪化しています。
type3sp500k.gifもうひとつ問題が判明。スパンを500kHzまで拡大してみると、かなり大きい副共振が出ていることが分かりました。
siward_resonance.gif上記の副共振の主犯は、SIWARD表示の水晶でした。これは水晶単体で共振特性を見たものです。せっかくうまくいったと思っていたのですが、このブランドの水晶を使うのはあきらめるしかなさそうです。
mecav9b_resonance.gifこちらはMEC AV9B表示の水晶です。副共振はあるものの、控えめです。
siward.gifこれは、X1・X4を抜き取ってX2・X3の2個だけとし、TC1とTC2でCpをキャンセルしたときの様子です。単峰特性ですが、簡単なCW受信機なら、結構使えそうです(副共振の問題を別として)。

実は、最近はどうだか分かりませんが、スペアナの狭帯域側のIFフィルタも同じような構成です。

halflatticefilte_type4.jpgヤフオクで10.695MHzの水晶を100個2000円で手に入れたので、ハーフラティス3段を試してみました。トリマコンデンサだらけになっても困るので、直列共振周波数シフト用のCは固定の100pFにしました(写真では水晶の陰に隠れています)。

水晶単体で直列付加容量と直列共振周波数シフト幅の関係を調べてみると、
10pF  +9.05kHz
22pF  +5.34kHz
47pF  +3.02kHz
100pF  +1.43kHz
というような感じでした。

並列容量キャンセル用は1個60円もする5pFのトリマコンデンサを使用しました。

halflattice_type4.gifこれがその回路図です。
type4sp5k.gif左図は縦軸1dB/divです。帯域内の周波数特性は、直列共振周波数シフト用のコンデンサを固定で決め打ちしてしまったので、フラットな特性になっていません。また、-6dB帯域も狭く、約1.4kHzしかありません。やはり、直列共振周波数調整用のトリマコンデンサは必要でした。
type4sp20k2.gif左図は縦軸10dB/div、スパン20kHzです。スカートのあたりがノイズっぽくて、-60dB帯域を測れません。また、3段であるにもかかわらず、形状比もよくありません。

※別のスペアナで測り直して図を入れ換えました。-60dB帯域は7.54kHzですから、形状比約5というところです。

type4sp100k2.gifスパン100kHzです。副共振のようなものが出ています。並列容量キャンセル用のTCを調整すると、スカートの具合はかなり変化しますが、SSBハンドブックの説明にあるようにノッチの位置によって形状比をうまく設定するということはできませんでした。

※図を入れ換えました。

※副共振のようなものは、どうも測定系に起因しているような気がします。

halflatticefilte_type5.jpg並列容量キャンセル用のTCによるノッチ位置の調整は難しかったので、こんどはシャント水晶を2個入れて、その直列共振によって明示的にノッチを入れてみることにしました。ハーフラティス1段です。4個の水晶は上の3段フィルタと同じく10.695MHzの水晶を使用しています。
halflattice_type5gifこれがその回路図です。

↑のtype4(と私が勝手に名付けた)と、並列容量キャンセル用のTCの入れ方がちょっと違っていますが、どちらでも機能します。

type5sp5k.gif左図は縦軸1dB/divです。通過帯域内のリップルを1dB程度まで許容すると、-6dB帯域は約2.0kHzまで広がりました。これ以上広げるとリップルがもっと大きくなります。
type5sp20k2.gif左図は縦軸10dB/div、スパン20kHzです。並列容量キャンセル用のTCによるノッチを通過帯域の上側(図では右側)に設定し、二つのシャント用水晶によるノッチを通過帯域の下側(図では左側)に設定しています。1段なので帯域外減衰量はあまりよくありませんが、調整が分かりやすいという意味では、このシャント水晶方式はFBです。

※図を入れ換えました。

type5sp100k2.gifスパン100kHzです。全然対称特性ではありません。hi

これでハーフラティス部分を2段、3段とし、シャント水晶も4つくらい入れてみると、いい特性が得られそうな気もします。

でもやはりラダー型の方が簡単でいい特性が得られそうだというのが、この一連の実験の結論かも・・・。

※図を入れ換えました。

halflatticefilte_type6.jpg先日沼尻さんにお会いした際に、ここまでの結果を報告すると、「やはり4段くらいにしないと実用的な特性にはならないでしょう」とのコメント。そこで、同じ頃に1個あたり約1円の激安水晶を2000個ほど手に入れたので、思い切って(?)ハーフラティス4段に挑戦してみました。10MHzの水晶を使用しています。
halflattice_type6gifこれがその回路図です。費用は86円ですが、そのほとんどはトリマコンデンサの値段です。
type6sp5k.gif左図は縦軸1dB/divです。-6dB帯域は2.4kHzほどです。ちょっとリップルがあります。
type6sp20k.gif左図は縦軸10dB/div、スパン20kHzです。まあまあみられる特性だと思います。-60dB帯域は7.66kHzで、形状比は3.18です。
type6sp100k.gifスパン100kHzです。結構すっきりした特性で、これなら使えるかもしれません。
type6varsp20k.gifトリマコンデンサを外して容量を計ってみると、いずれも35pF前後でしたので、これらを33pFの固定コンデンサで置き換えてみたのが左図のBWの広い方の図です。-6dB帯域は約2.52kHz、-60dB帯域は約7.03kHzで形状比2.79です。固定コンデンサにしたので、コストも1/3以下の26円になりました。

直列付加容量と直列共振周波数のシフト幅の関係を調べてみると、
Cx(pF)  Δf(kHz)
220   +0.34
100   +0.83
68   +1.14
47   +1.72
33   +2.29
22   +3.26
10   +5.94
6   +7.94
3   +10.74
のような感じです。

そこで、付加容量を150pFにすれば帯域500Hzくらいになるだろうと思い試してみたのが左図のBWの狭い方の図です。-6dB帯域は約650Hz、-60dB帯域は約2.65kHzで形状比4.08です。重ね合わせてみると、右側のスロープはきれいに平行移動しているのが分かります。

この方法だと、帯域可変で使用できるのはUSBの場合だけになりますが、反対側の水晶に22pF程度の直列容量を付加してあらかじめ周波数に3kHz程度のゲタを履かせてやれば、LSB側にシフトさせることも可能になります。

なお、試しにコンデンサをダイオードSWで切り換えようとしてみたところ、フィルタの通過帯域の肩がダレてしまい、BFでした。