HFオールバンドSSB・CWトランシーバの製作

(『モービルハム』1998年5月号掲載記事の草稿)


 HFオールバンドSSB・CWトランシーバを製作しましたので、紹介します。

 まず本機の特徴を示します。

 以下、各ユニットごとに回路の概要を解説します。

1. デジタル・カウンター・ユニット

 このユニットでは、PLL及びVXOを制御するデジタルデータを作っています。

 まず、送信キャリアポイントの周波数を[AB.CDEF]MHzとした場合、MHz台の[AB]桁のデータは、バンドスイッチとダイオードマトリクスによって機械的に切り換えています。下位の[CDEF]桁のデータは、2相式のロータリーエンコーダのパルスをDフリップフロップで方向判別し、4桁分のBCDアップダウンカウンター4510でカウントして生成しています。これら[AB.CDEF]のデータは7セグメントLEDドライバ4511に送られ、パネル面に周波数を表示しています。

 次に、BCD加算器4560によって、この周波数データに[48.72MN]というデータを加算します。[MN]は、LSB、CW、USBの各モードにおいて表示周波数が送信キャリアポイントに一致するようにそれぞれ[50][57][80]の値をモードスイッチとダイオードマトリクスによって機械的に切り換えています。このようにして得られた[AB.CDEF+48.72MN]のデータによってPLLやVXOを制御しています。

 なお、本機では、各相50パルス/回転のロータリーエンコーダを用いており、このままでは周波数ダイヤル1回転で100Hz×50=5kHzしか可変することができませんが、ダイヤルの回転速度が早いときは1回転50kHzに自動的に切り替え、スムーズに周波数を変更できるようにしています。

2. 局発ユニット

 前述の[AB.CDEF+48.72MN]のデータの上位4桁でPLLIC、MC145163の分周比を設定し、第1局発信号を作ります。このICの可変分周器の応答周波数は標準で30MHzとされていますが、本機の回路では電源電圧9Vとすることで、44〜88MHzで安定的にロックがかかるようにしています。VCOの出力は、2つのバッファアンプを経て、一方はPLLICにフィードバックされ、他方は第1ミクサに加えられます(いずれも約10dBm)。なお、このVCOのユニットは、しっかりシールドするだけでなく、機械的な振動が加わらないようにする必要があります。このため、コイルにはFCZコイル等の可動コア入りではなくトロイダルコアを用い、さらに回路定数等が確定して十分なテストが完了した段階で、シールドケース内部に5分間硬化型エポキシ接着剤を充填して封じ込めてしまいました。これを怠ると、受信機のスピーカー出力からVCOに振動が伝わり、ハウリングのような現象が生じます。

 [AB.CDEF+48.72MN]のデータの下位2桁は、ラダー抵抗型D/A変換器によってアナログ電圧に変換されます。この電圧は、RIT制御用のアナログ電圧と加算され、適度のゲタを履かされて第2局発のVXOのバリキャップに加えられます。これにより、下位2桁00〜99に対して60.0000〜59.9901MHzを100Hzステップでカバーします。なお、ヘテロダインの関係上、入力数値と周波数の増減が逆になるため、バリキャップのカソード側は9V固定とし、アノード側の電圧を変化させています。

 第3局発(BFO)は、11.2750MHz(LSB及びCW受信)と11.272MHz(USB)の水晶をダイオードSWで切り換える回路です。CW送信時は11.2750MHzの水晶を11.2743MHzにシフトさせています。出力は10dBm以上あります。

3. トランスバータ・ユニット

 トランスバータ・ユニットでは、受信時には入力信号を増幅した後、48MHz帯の第1IFに変換し、送信時には、逆に48MHz帯の信号をHF帯に変換し、広帯域アンプで1Wまで増幅しています。

 回路的には見ての通りシンプルですが、いざ作るとなると、バンド毎のLPFやBPFの切替えがかなり面倒です。本機では、HW9で使われていたプリント基板用の8接点ウエハー4枚構成のバンドスイッチをそのまま流用しています。このスイッチは、おそらく秋葉原等では入手困難ですので、新規に製作する場合にはミニチュアリレー等で代替する以外にないと思います。また、LPFについてもHW9の部品をそのまま流用したため、コイルデータを省略してありますが、『トロイダルコア活用百科』に紹介されている定K型LPFで代替可能です。

 48MHz帯の第1IFフィルター(いわゆるルーフィング・フィルター)は、できればBW15kHz程度のCFやMCFが欲しいところですが、適当なものが見当たらず、本機ではFCZコイルの複同調で済ませています。ピコ6等のシングルスーバーの50MHzトランシーバにトランスバータを付加した場合にも、この段での通過帯域幅は数百kHzになりますから、それとほぼ同等の性能は得られるだろうと考えました。

4. SSBジェネレータ・ユニット

 このユニットは、48MHz帯の第1IF段、ミクサ、11.2735MHzのSSBジェネレータから構成されています。IFアンプに計4個用いているMC1350Pは、45MHzで電力利得50dB、AGCレンジ60dB(フォワードAGCタイプ)(注)という素子で、海外のQRP機等でよく使用されています(ちなみに、HW9ではその改良型でピン配列が同じのMC1349Pが用いられていましたが、こちらの方は国内では入手困難のようです)。

(注)「フォワードAGCタイプ」と書きましたが、これは間違いでした。MC1350Pは、2SC1855などフォワードAGC用のパイポーラトランジスタのように、コレクタ電流を増やすとfTが下がるような形で電力ゲインが減少するという回路構成ではなく、信号を分流させてAGCをかけているということを後に勉強しました。

 なお、このICのデータシートでは、50Ωの負荷に対して出力同調回路に13〜20:1の捲線比のIFTを使用するよう指定しており、捲線比が3:1前後のFCZコイルをそのまま使用すると、電力利得が10dB程度低下してしまいました。このため、このICの出力トランスには、すべて手持ちの7Kボビンに1次に12回(バイファラ巻き)、2次に1回巻いたものを使用しています。

 AFアンプに用いたLM388Nは、LM386Nの出力1W版のようなICで、HW9から流用したものです。国内でも入手可能ですが、新規に製作する場合にはごく一般的なLM386Nを使った同等の回路で十分と思います。

5. コントロール・ユニット

 コントロール・ユニットというほどのことはないのですが、ここでは送受信切替、共通9Vの供給を行っています。送受信切替は、HW9の回路を再現したもので、CW送信をフルブレークインとした関係で、実はCWのキーイングとSSBのPTTが同一回路になっています。

6. 総合評価

 HFオールバンドトランシーバの自作は、5年ほど前にもJE1UCI富川OMの力作(シングルスーパー構成)が本誌に紹介されていますし、他誌でもコリンズタイプの自作例は時折みかけるのですが、本機のようなアップコンバージョンタイプについては、少なくとも筆者の記憶する限り、これまで紹介されたことがありません。

 おそらく、ネックとなっていたのは、一つは適当なルーフィングフィルタが入手しにくいこと、もう一つは第1局発が高い周波数域になること、の2点だろうと思います。しかし、前者については前述のようにLCフィルタでも何とかなります。後者については、第1IFを45〜48MHzあたりにとれば、何とかMC145163で直接分周可能な範囲に収まります。しかも、同じだけの可変幅を実現するのに、IF11MHz帯のシングルスーパーでは第1局発の周波数比が14〜40MHzと約2.8になるのに対して、本機の構成では51〜78MHzと約1.5で済み、かえって設計が楽になります(本機では1個のVCOで切り換えなしに全バンドをカバーしています)。

 全般的な問題としては、回路の複雑化を避けようとミクサやIFフィルタ等をほとんど送受信兼用としたため、送受信それぞれについて最適化がなされていないこと、切替のためのダイオードスイッチのロスが無視できないこと、等が挙げられます。メーカー製の実用機と比較すると、「一応オールバンドで波が出る」というレベルにすぎないのかも知れません。この種の機械で運用する場合には、他局への妨害等について細心の注意が必要と思われます。