2mFM Total Power Competition用トランシーバ

2010年1月


2mfmtptrx_front私の所属するJARL QRP CLUBでは、2009年夏のハムフェアに向けて、144MHzのFMモードで送信・受信時の消費電力1Wあたりの交信距離を競うコンペを行うことになりました。2008年夏のハムフェアの際にそのような話があり、私も参加を表明しました。このコンペのルールには、大略次のような条項が設けられています。

・2009年7月15日までに交信をして、その記録を申告すること。
・当然のことながら、局免許の変更手続などをきちんと行ってから交信すること。

私の立てた目標は、3V動作で送信出力10〜20mW程度、送受信の水晶を共用にするというようなものです。ノートを見ると、2008年の年末くらいから実験にとりかかり、2009年3月に一応送信部のバラックテスト機が出来上がったので局免許の変更手続を行い、7月上旬にようやく全体が完成し、交信締め切り3日前の7月12日、このコンペのためにわざわざ移動運用をして下さった各局などと無事交信を果たすことができました。

写真は交信を果たした頃のトランシーバの外観です。この時点では、電源の配線はワニグチクリップ付きのテストリード線だったりします。赤黒のバナナチップ用ソケットは、消費電流測定用端子で、電源回路に直列に入れた1Ω抵抗の両端を引き出しています。白いスイッチは送受信切り替え。右側のダイヤルは水晶切り替えで、0が呼出周波数、1〜10がその他の周波数、1と10の間の無印のポジションでは左側のダイヤルでのVXOとなり、144.70〜145.18MHzを連続カバーします。

 

2mfmtptrx_insideこれが本体内部です。クリックすると大きく表示されます。

右上付近はモトローラのMC13135Pによる受信回路です。昔の水晶式2mトランシーバの水晶が手元にゴロゴロしていたので、そのうち受信用の水晶だけを使い9逓倍で取り出した135MHz帯の局発を1stLOとし、このICで10.7MHz、455kHzとダブルスーパーヘテロダインしてFM検波しています。なんとICの検波出力を直接セラミックイヤホンで聞いていますが、やってみるとうるさいほどよく聞こえます。なお、このICはMC3362の後継品ですが、1stLO用のバリキャップが内部でVCO回路に接続されず、単独で設けられています。残念なことにモトローラの半導体部門を引き継いだON Semiconductor社でもすでにディスコンのようですが、一方Lansdale Semiconductor社からML13135という互換品が出ているようです。

中段中央から左下付近は送信回路です。10.7MHzのセラロックにFM変調をかけ、これを送受信共通の135MHz帯のLOとモトローラのMC13143DというミキサICで混合して144MHz帯の信号を得ます。その後2SC3355で2段増幅して20mWの送信出力を得ています。このミキサICは、1.8V1mAの消費で2.4GHzまで動作する優れものですが、すでに絶滅種のようで、入手はなかなか難しいです。

右下にずらっと並んでいる水晶は上述の通り昔の水晶式FM機の受信用のものです。あの懐かしいIC-21用とかTR-2200用が混在していますが、受信用はどこのメーカーもだいたい9逓倍(送信用はメーカーや機種によって9逓倍と12逓倍とがある)なので、問題ありません。現在のバンドプランでFM運用を許されているものを拾いだして並べました。現在145.00 144.72 144.80 145.04 145.16 145.20 145.22 145.32 145.36 145.50 145.62を実装しています。VXOはもう一つの145.16用水晶を動かしています。2009年7月の実際の交信では、もっぱらこのVXOを使用しました。

 

2mfmtptrx_circuitschemaこれが回路図です。クリックするとピクセル等倍のものが開きます。

見ていただくとわかりますが、低電圧使用かつ減電圧特性を良くするために、ほとんどのトランジスタはエミッタを直接接地して固定バイアス方式で使っています。教科書的にはトランジスタのhfeによりIcのバラツキが出やすいという問題がありますが、もともと1品しか作らないので、バラツキはIcを見ながら必要ならバイアス抵抗を換えれば済みます。大雑把に言ってバイアス抵抗220kΩでIcが1mA流れます。送信部の電力増幅段も同様の回路でバイアス抵抗値を100k、47k、22k、10kと換えていきながら程よい出力が得られる値を求めました。

コンペ終了後、スケルチ回路を追加しました。MC13135内蔵のオペアンプでRSSI信号を基準電圧と比較して、信号がないときはオペアンプのオープンコレクタ出力を使ってAF信号ラインをGNDに落とすというだけのものです。完全に無音にはなりませんが、十分実用にはなります。

 

コンペに申告した記録は最終的に次のようなものです。
  • 交信距離 37.7km
  • 使用リグ 自作20mW
  • 電源電圧2.82V*(送信時消費電流22.0mA+受信時消費電流7.5mA)=0.083W、TPハンディキャップ12.0
  • アンテナ 10mH 3バンドGP
  • 達成km/TPW 452